OBOGのための山歩き再入門

登山用具のいまとむかし

第1回:登山靴と歩くための補助道具



あの頃打ち込んでいた登山を、もう一度始めてみよう――。

そう思い切っていざ登山用品店に行ってはみたものの、ひとつひとつの道具のあまりの変わり様に、何をどう選んでいいのか戸惑ってしまう、OBOGの中にはそういった方々が多いと聞きました。

そんな元・登山愛好家の皆さんのために、HWVOBであり現在アウトドアライター・編集者である筆者が、かつての山道具が21世紀の現代にどう変わったのか、その移り変わりと進化の最新事情を踏まえてみなさんの道具選びをお手伝いするのがこの企画。

調べてみたところ、昭和時代の登山スタイルといえば、

  • ネルシャツにウールのニッカボッカ。
  • ラクダのシャツに毛糸のパンツ。
  • 分厚いウールのセーター。
  • チロリアンハット。
  • 薄いナイロンのヤッケとオーバーズボン。
  • キャラバンシューズか重登山靴。
  • キスリングかクレッターザック。

概ねこんな装備が主流だったと聞きます。

ただ筆者は90年代のワンゲル現役でしたので、もちろんここに挙げた装備の時代は終わっており、かろうじて残っていたのはオールレザーの重登山靴くらいでした。筆者の時代になると、ダクロンやオーロンと呼ばれる速乾素材のTシャツやラガーシャツ、GORE-TEXなど防水透湿素材のレインウェア、防寒着はフリースや化繊のアンダーウェア(それでもなぜか呼び方は「毛下着」)と、大分進化はみられていましたが、それですら2024年の今と比べればまだまだずいぶんと機能的には劣っていたといえます。

いずれにせよ、いまどき山でニッカボッカを穿いている人なんて一人も見かけませんね。ましてや、もし冬山でセーターにヤッケなんて人がいたら変人扱いされてもおかしくありません。今考えると、あの時代の人々はよくもまぁ低体温症にならなかったものです。

そんなかつての山装備は、今どうなっているのか。これから数回に分けてお話ししていきたいと思います。

登山靴はより軽くて丈夫、そして多様に変化

第1回は登山するには何を置いてもこれがなきゃ始まらない「登山靴」を始めとした歩くための道具についてです。

かつては「ゴロー」等の専門ブランドが輝いていた時代。

登山靴と言えば、山岳部の御用達、例の重く頑丈なオールレザーの「重登山靴」が縦走から冬山まで多岐にわたって活躍していましたが、ずいぶん昔に主役の座からは退いています。もちろん今でも変わらず大きなお店に行けば売っていますが、いかんせん他のシューズの性能がどんどん進化している今、どうしても好きな人以外、あえて選ぶ理由はなくなっているというのが実情です。

その代わり最近ではより「軽くて丈夫な」合成繊維がメインの素材として台頭し、用途に応じてレザーやプラスチックを組み合わせた多種多様なモデルが主流となっています。

しかも最近では登山靴と一口に言っても、地形やアクティビティによってさまざまな種類があり、現在でも細分化し続けています。常に新しい遊びが生み出され、それに対応した道具が生み出されるのは、どんなスポーツや文化でも変わりません。

登山というアクティビティが今よりもシンプルであった時代と違い、今ではオーソドックスな登山やハイキングをはじめ、クライミング、トレイルランニング、ウルトラライトハイキング、スピードハイキング、沢登り、スクランブリング(手足で急な岩場を駆け登る山行スタイル)、マウンテンバイクなど、山での遊びの種類は驚くほど多様になりました。

つまり、今どきの山のお店に並んだシューズは「登山靴」という大きなくくりではあるものの、実際には登るルートや季節によって少しずつ特徴の異なるモデルや、特定のアクティビティ向けに微調整された少しクセのあるシューズまでが所狭しと並んでいる、そう思っておけば間違いないかと思います。

登山再入門という視点で見れば、まずはそれらの細かな種類に惑わされず、クラシックな王道の登山・ハイキングにマッチしたオーソドックスなモデルの最新系を選ぶことをおすすめします。そこから慣れてきて、新しいスタイルが必要になったときにはじめてその種のシューズに手を伸ばしていくのが良いでしょう。

登山靴選びで必要なポイントは3つ

では、現状が分かったところで、実際に再入門にピッタリの登山靴を選んでいきます。細かく話していくとこれはこれで非常に奥が深い話になるので、ここでは大切なことだけ端的に話すことにします。

オーソドックスな登山靴選びで必要なポイントは次の3つ。

  1. 登山靴の種類(どんなアクティビティ向けか)
  2. ソールのタイプ(どんな地形・路面向けか)
  3. ラスト(足型)(自分の足に合うかどうか)

実際には優れた登山靴を考えるにはもっと細かい点をチェックする必要がありますが、それに関してはぜひ私の運営している下記「Outdoor Gearzine」内のガイド記事を参照いただけますと幸いです。


Outdoor Gearzine「お店で登山靴を選ぶ前に知っておくべき6つのポイント」


ポイント1:登山靴の種類 ~それぞれの得意・不得意な山や登山スタイルを知る~

最近の山を歩く(走る)ための靴は、大きくいって6つくらいのタイプ(厳密にいうともっと細かいのですが)に分けられます。

まずは下の表でその6種類の登山靴の特徴をまとめてみましたので、興味のある方は一読ください。

この中で、まず再入門のために必要なタイプはずばり「ハイキングシューズ(ブーツ)」「トレッキングブーツ」の2種類です。どちらもオーソドックスな山歩きに適しており、「ハイキングシューズ」の方は日帰りの低山などに、そしてトレッキングブーツは谷川岳や八ヶ岳、アルプスなど、岩場も多少含んだ中~高山の軽装トレッキング(小屋泊まりまで)に向いています。

なお、ハイキングシューズには普通のスニーカーと同じように足首のサポートがない「ローカット」モデルのシューズと、バスケットシューズ等のように足首までのサポートがある「ミッドカット」モデルのブーツがありますが、あらためて登山を再開するという人にとっては当然より安全なミッドカットのブーツがおすすめです。


ポイント2:ソールの硬さ ~ルートや背負う荷物の重さによって硬さ具合を決める~ 

ハイキングシューズ(ブーツ)も、トレッキングブーツも、厳密な定義があるわけではなく、実際には「ソール(靴底)の硬さ」の違いとそれに伴う靴自体の全体的な頑丈さの違いによって緩やかな差がついているだけだったりします。

このため、実際にトレッキング用のシューズを選ぶ際には必ず試し履きしたりして、靴底を曲げてみることが重要です。

一般的に登山靴の靴底部分は通常、同じように見える登山靴でも実際に靴底を折り曲げてみようとすると、簡単に曲がるものから、びくともしないモデルまでさまざまあることが分かります。

靴底が硬ければ硬いほど、重い荷物で不安定な足場に着地しても足裏がねじれにくい(地面が安定する)、登り坂や足がかりの細かい場所でつま先立ちしてもかかとが下がりにくいため、立ちこみやすく疲れにくいというメリットがあります。

つまり「高尾山の日帰り→谷川岳や小屋泊まりの八ヶ岳→槍ヶ岳やアルプスのテント泊縦走」と、よりテクニカルで重い荷物になるにしたがってソールの剛性はより高く、より足首まで固定力のあるブーツが有利になってきます。

()確認の目安としては、荷物を背負っていない状態で試し履きしたときにつま先立ちしたり、細かいホールドに立ち込んだりしてみます。そして、

  • つま先が簡単に折れ曲がるようであればそれは「2000m程度までの山での日帰り~小屋泊まり」に適したハイキングブーツ。
  • つま先が簡単には折れ曲がらない(思い切り体重をかけて少し曲がる)ようであれば「日帰りアルプストレッキング〜テクニカルな小屋泊まり縦走」に適したトレッキングブーツ。
  • つま先がまったく折れ曲がらないようであればそれは「岩場のバリエーションルートや長期テント泊縦走」に適したアルパインブーツ

といった具合に考えておけばよいでしょう。

どれだけ良い靴でも、自分の足に合っていなければ意味がない 

最後に考えなければならないのは登山靴選びの難しい部分なのですが、人間の足は一人として同じ形をしていないと同時に、登山靴はある特定の足型を元にデザインされているため、(オーダーメードでない限り)その足型がその人の足と同じとは限らないという事実です。

どれだけ優れた性能を備えた靴であっても、足を入れたときに窮屈だったり緩かったり、またどこか一部分が圧迫されたりして自分に合わないということは、実際珍しくありません。足型は主にメーカーによって大まかな傾向があり、「自分は◯◯社のシューズが合わなくて」「◯◯のブーツは自分の足に合うからずっと履いている」といった話を登山仲間の間ではよく聞きます。またメーカーによっては同じシューズに「ノーマル・ワイド」と2パターンの足型を用意して、より幅広い選択肢を用意してくれていることもあります。

その人にとって最も適した靴はその人の足しか分からない、このため最適なトレッキングシューズを選ぶためには、必ず実際にお店で試し履きをして、自分の足に合うかどうかを確認することをおすすめします。


登山再入門におすすめのハイキングブーツ・トレッキングブーツ3モデル

参考までに、最後にこれから再入門するにあたって、10年ほど道具のレビューをしてきた筆者が、ここ最近で感心した、お気に入りのハイキング・トレッキングブーツを3モデルずつご紹介します。いずれもブランドとして信頼でき、また昨今の最新技術を採り入れた品質の高いモデルであることは間違いありません。

ただ、あくまでも筆者の足に合っているという点には留意が必要であり、これらのおすすめモデルが自分の足に合わなかった場合には、躊躇せず同クラスの別メーカーのモデルを試してみることが大切です。

ちなみに登山靴の価格ですが、最近の相場感について触れておきますと(もちろんメーカーによって幅はあるものの)専門ブランド製のライトなハイキング向けのハイキングブーツが大体1万円台後半~3万円程度、トレッキングブーツでは2万円台後半~4万円程度、本格的なアルパインブーツで4万円台後半~7万円程度という感覚です。価格だけでいえばモンベルの登山靴はおおむね安いので、足型が合うならば間違いはありません。

SALOMON X ULTRA 360 GORE-TEX(¥20,900 税込)

極上のフィット感と疲れにくさが魅力、低山~一般登山道なら最適な超快適ハイキングブーツ



お気に入りポイント

  • 極上のフィット感と包み込むような心地よいホールド感
  • 動きの自由を制限することなく横方向のブレを抑える優れた安定感
  • つま先をはじめ周囲を鋭角な障害物から守るしっかりした保護
  • 適度なクッション性
  • 素早く簡単に脱ぎ履きできるクイックレースシステム
  • GORE-TEXによる安定の防水透湿性
  • 乾いた路面と濡れた路面の両方で優れたグリップ力を提供する ぬかるみや岩場にも安定したグリップ力

注意点

  • 決して走れなくはないがファストパッキングなどのアクティブなハイキング向きではない
  • 10kgを超えるような重荷を背負ってのハイキングに対してはソールが柔らかすぎる


LOWA バルド GT(¥37,400 税込)

小屋泊まり程度の荷物を担いでの登山道歩きに最適、人によっては日本のほとんどの無雪期ルートに対応可能な汎用性の高いトレッキングブーツ



お気に入りポイント

  • 丈夫で耐久性のあるスプリットグレインレザーと軽量で通気性・可動性に優れたナイロン生地とのハイブリッド
  • シュータンを定位置に固定するX-LACINGテクノロジー
  • シューレースの流れをスムーズにするローラーアイレット、締め具合を微調整できる2ゾーンレーシングによるフィット感を高める工夫
  • 優れたトラクションと多様な地形に対応するVibram TRAC LITE Ⅱアウトソール
  • 防水・透湿性に優れたGORE-TEX
  • 日本人に多いWXLサイズのラストの展開


気になるポイント

  • 通気性に(透湿性)は低い
  • 本格的な岩場の多いルートにはややソールが柔らかすぎる


La Sportiva エクイリビウム ST GTX(¥60,500 税込)

小屋泊まり程度~ある程度の重荷の縦走まで対応、アルプスの岩場ルートでも安心の高機能トレッキング(ライトアルパイン)ブーツ



お気に入りポイント

  • 足全体を包み込むフィット感
  • ゴツいのに、軽い
  • 柔軟性とサポートが絶妙なバランスの足首周り
  • 岩場などでも安心、セミワンタッチアイゼンも取付けられる強固なソール
  • 着地から蹴り出しまで計算され安定したグリップを発揮するアウトソール


気になるポイント

  • シューレースの緩みやすさ
  • ウェットな岩場や木の根などでは(ハイキングブーツなどに比べれば)グリップが弱くなる
  • ライトな日帰りハイキング用としてはやや大げさすぎる
  • 高価な価格


疲労の軽減、転倒防止に、ぜひトレッキングポールを試してみて

筆者がワンゲル現役だった90年代はもとより、20世紀にはほとんど見向きもされないアイテムであった歩行用の杖、トレッキングポール。

これがいつの日からか、あっという間にハイカーの間でごく一般的な装備として認知されるようになりました。その理由はさまざまあると思いますが、端的に言うと、

  • 足裏や下半身の関節にかかる負担を軽減する。
  • リズミカルに足を運ぶ助けになり、疲れにくくなる。
  • 滑りやすい地面や、急な下りでの補助、小川の渡渉など、不安定な地形で安全に歩くための助けになる。

など、多くのメリットが科学的な研究や利用者の間で認められていったからです。

かくいう筆者も数年前から愛用しはじめ、今ではこれ無しでは何となく不安になる程度に、ハイキングのお供としておなじみになっています。行動中のさまざまな面で歩行をサポートしてくれる縁の下の力もち的な存在がトレッキングポールです。

これから登山を再開するならば、ぜひ検討してみるのがいいでしょう。
最初の一本としてはコストパフォーマンスと品質の両面から、BLACK DIAMONDの「トレイルバック ¥11,770 (税込)」などがおすすめです。品質は確かですし、雪山用のバスケットが標準で付いているので、これ1つで雪山用にも使えてお得です。


できるだけコンパクトに収納したいという場合には、下のような折り畳み式のポールがいいでしょう。こちらの「パーシュートFLZ ¥23,540 (税込)」は天然コルクの握り心地の良さも、丈夫さも併せ持つ、品質・汎用性共に間違いない代物です。


山道具の最新情報とノウハウが詰まったWEBマガジン「Outdoor Gearzine」もよろしくお願いします

最後にちょっと宣伝を。

冒頭でもお伝えしましたが、筆者、H11卒久冨は現在アウトドアライター・編集を生業にしており、2014年よりリアルな山道具情報をお伝えするWEBマガジン「Outdoor Gearzine」を運営しております。そこでは厳選された優れた山道具の紹介レビューや道具にまつわるさまざまなお役立ち記事を多数配信中です。

またその他、プレミアムな有料記事の配信やトークショーやワークショップ、ハイキングといったさまざまな限定イベントなどに参加できる月額課金制の「メンバーシップ」サービスも最近始めました。ぜひ有益な情報と最先端のアウトドアカルチャーを体感いただき、またしがないワンゲルOBの端くれの支援だと思って…是非ともOBOGの皆さまこれを機会にメンバーシップ等で応援いただけますよう、よろしくお願いします🙇

Outdoor Gearzineのメンバーシップをちょっとのぞいてみる

※メンバーシップサービスには「OFUSE」というサービスを利用しております。応援・メンバーシップ加入にはOFUSEへの登録等が必要になりますので何とごぞご了承ください。メンバーシップについての詳しくは以下のページをご覧ください。

Outdoor Gearzineのメンバーシップについて