OBOGのための山歩き再入門
登山用具のいまとむかし
第2回:バックパック・リュックサック
登山を再開しようというOBOGの皆さんのために、最新情報を交えて賢い道具選びについて数回に分けてお話ししていくこの企画。
第2回は「バックパック」です。
昔の「ザック」、今は「バックパック」?
言うまでもなく、登山で使う様々な装備を運ぶために必要不可欠な登山道具ですが、いわゆる登山用のバックパックが実質的に日本に伝わったのは、日本山岳界の先駆者と名高い岡野金次郎氏からといわれています。
ところでこの「バックパック」という呼び方、どこか違和感を感じているOBOGの方々も多いのではないでしょうか。
私の所有している『山と渓谷 1965年5月号』を見てみると、当時は日本での呼び方はドイツ語で"背負い袋"という意味の「ルック・ザック」という呼び方が正式として使用されていたようですし(下写真)、ワンゲル90年世代の筆者にとっては単に「ザック」という呼び名が最もしっくりきます。ドイツ語の方言由来の「リュックサック」という呼び名も一昔前まで一般的でした。
ただ現在では、いつの間にか英語の「バックパック」という呼び名が一般的に多く使われるようになっています。
この「バックパック」が登山でも使われるようになったのは、アウトドアブランドである「KELTY(ケルティ)」が1950年代初頭に開発した、アルミ製フレームにナイロン製のコンパートメントが取り付けられた製品から、という説が残っていますが、「バックパック」という言葉自体は20世紀の初めに生まれたともいわれており、その起源やきっかけについては諸説あるようです。
参考:
https://blog.kelty.com/celebrating-70-years-of-kelty/
https://www.rei.com/blog/hike/the-history-of-the-backpack
いずれにせよ「リュックサック」と「バックパック」は中身が違う分けではなく、どちらも背中に荷物を背負うための袋といった意味の道具を指し、ヨーロッパの登山文化の歴史の中で呼ばれていたのが「リュックサック」、アメリカ人が作った北米での呼び方が「バックパック」であるという以外に深い意味がある分けではありません。想像するに、市場の力関係で北米ブランドが力を増してきた2000年代以降に日本ではバックパックという呼び方が広がり、現在に至っているように思われます。
昔と今でバックパックは何が変わった?
昭和世代の登山用バックパックの主流といえば、やはり「キスリング・ザック」。中央のメイン気室に、大きなサイドポケットを備えたタイプのザックであるキスリングは1960~70年代には主流でしたが、時代とともに進化し、現在では背面に搭載された剛性の高いフレームと、それに連動したウエストハーネスによって腰で荷重を支えられる縦長タイプのバックパックが主流となっています。
ただ、登山というアクティビティ自体が変わっていない以上、バックパックに求められている基本的な考え方は変わっていません。過酷な環境で、
- より多くの荷物を
- より快適に
- より便利に
持ち運べるような、
- より軽くて
- より丈夫で
- より長持ち
なバックパックを作るために、現在でも日々進化を続けています。
ただ、時代とともに登山というアクティビティも多様化し、志向も大きく変化していきました。その結果として(昔からそうであったとは思いますが)バックパックはその目的や用途、容量、機能によってさまざまなバリエーションが存在しているのが実際です。
そこで今回は、OBOGの皆さんがかつての山登りを再開するにあたって最適な登山用バックパックを選ぶために、最低限知っておくべきポイントについてまとめました。
ただこれから挙げるポイントは、あくまでも最適な1つに出会うための第一ステップです。なぜなら、バックパックとは実際に背負ってみないと本当に自分の身体に合っているのかが分からないからであり、カタログ上でどれだけ良さそうなモデルでも、最終的には実際にお店で背負ってみたうえで判断することをおすすめします。
バックパック選びで必要なポイント3つ+α
再入門にピッタリのバックパック選びのためにあらためて押さえておきたいことを早速お伝えしますと、オーソドックスな縦走用のバックパック選びで必要なポイントは以下の3つ。
- 用途・目的に合ったタイプを選ぶ
- 背負い心地のよい(身体に適切にフィットする)モデルを選ぶ
- ちょうどよい適切な容量を選ぶ
実際にはもう少し細かいポイントもありますが、それに関してはいつものようにぜひ私の運営している下記「Outdoor Gearzine」内のガイド記事を参照いただけますと幸いです。
Outdoor Gearzine「失敗しないバックパックの選び方」
ポイント1:用途・目的に合わせたバックパックの構造・タイプを選ぶ
ひと口に登山用バックパックといっても、そこにはさらに細かいアクティビティ(目的)に応じたバリエーションが存在しています。
それぞれ何が違ってどんな特徴があるのか、以下の表にまとめてみました。
登山再入門に限っていえば、この中で選ぶべきは、重い荷物を背負って山道をゆっくり快適に歩く登山のための「縦走用」モデルを選ぶのが間違いない選択です。
UL(ウルトラライト)スタイル向けの超軽量バックパックには要注意
登山向けバックパックのほとんどは背面にアルミ合金やプラスチック製のフレームが内蔵されています。このフレームが支柱となることで荷重を的確に腰部分に伝えるとともに、バックパックが背中の形状に合わせてしっくりとフィットすることをサポートします。
ただ、ここ数年で大きく人気を博している「ウルトラライト(超軽量)ハイキング」スタイルのバックパックでは、背負い心地や利便性よりも軽さを重視するため、細部にわたって極限までそぎ落とされた作りをしており、快適さや丈夫さ、利便性が(一般的な感覚からすると)物足りないモデルが存在しています。
こうしたパックでは荷物のない状態で背負った限りではとても軽くて調子がいいように思われますが、実際に重たい荷物を中に入れて背負ってみると肩に重さが集中してきついという場合があります。
さらに言うと、ウルトラライトのバックパックは生地も非常に薄く作られているため、岩場等で用意に擦り切れたりしてしまうようなデリケートなモデルも多数あります。
元々こうしたモデルは中に入れる荷物が極限まで軽く、しかも岩場を攀じ登ったり険しい藪をかき分けたりというより広い道を淡々と歩くスタイルを想定しています。このため、軽量化への明確な目的意識を持っていない限りはこの背面フレームがないモデルはおすすめしません。
参考までにバックパックの重さの目安として一例をあげると、35~40リットルのバックパックならば1,500グラム前後が標準、1,000グラム前後であれば軽量でサポート力は低め、1700グラム以上あれば耐久性・サポートの高いザックであると考えてよいかと思います(30リットルのバックパックの場合は、上記を200グラムくらいずつ低めに考えます)。
夏の暑さによる不快感を解消する「背面通気パネル」
バックパックを背負って山道を何時間も歩けば、背中が汗でじっとりと濡れることはほぼ避けようがありません。とはいえ、不快な汗とオーバーヒートを少しでも防ぐことができれば、より旅は楽しく快適になるはずです。
そこで考え出されたのが、背面に大幅な通気性を確保したバックパックです。「ベンチレーションパック」や「テンションメッシュバックパック」とも呼ばれ、背面フレームがトランポリンのように背中から数センチ離れているデザインで、背中が柔軟で通気性の高いメッシュ生地に接するように作られています。
これによって背中は常に風が通っているため、通気性は抜群。行動中どんなにたくさん汗をかいていても不快感はなく、汗も気がつけばいつの間にか乾いてくれますので、春夏の暖かい時期のハイキングにはこれ以上なくおすすめといえます。
ただこのテンションメッシュフレームの弱点として、背中がくぼんでいる分メイン収納の容量が減少しパッキングもしにくくなるということ、また背中に空間ができることで重心が後ろにもっていかれがち(重い荷物の場合振られやすい)という2点がよく言われます。また個人的には寒い冬場は背中を通る風によって少し寒さが感じやすい気がします。その意味でこのフレームのバックパックは完璧ではなく、寒すぎない時期の荷物の多すぎない旅に使うのが理想です。
ポイント2:背負い心地のよい(身体に適切にフィットする)モデルを選ぶ
登山で長時間歩き続けていると、ちょっとした違和感やズレでも、長い時間蓄積されることで想像以上のダメージとなってしまいます。このため登山をより快適・安全に楽しむには、背負った時に、自分の身体にフィットした背負い心地の良いバックパックを選ぶことが大切です。
100年以上の歴史を誇るドイツのパックメーカー、ドイター(deuter)は、
まずは一番フィットするパックを見つけること。サイズとアクティビティはその後に選ぶ。
と語っています。バックパック選びでこれほどまでに大切なのが「自分の身体にフィットした」バックパックを選ぶということです。裏を返せば、ここまでフィッティングについて強調するということは、どんなに優れたバックパックといえども自分の身体に合わない場合もあるということ。
バックパックは、ある程度サイズ調節ができるものであっても、自分の身体に合わないという場合があり得るのです。特に欧米ブランドのモデルは要注意で、モノによっては肩幅が合わなかったり、背中の長さに合わせるとウエストのサイズが合わなかったりします。
バックパックが自分の身体に合っているかどうか(=背負い心地が良いかどうか)を知るためには(多くのザックを背負ったことがある人ならばある程度サイズ表から予測がつく場合もありますが)やはりお店で実際に背負ってみるしかありません。その際はできる限り中に実際に近い荷物を入れるなどして、以下の点に注意してみましょう。
- 背面長(トルソー)の長さが合っているか?
背面長とは第七頸椎(俯いたときに首の裏に突起した大きな部分)から垂直に下りた腰骨の末端までの長さ。この背面長が長すぎず短すぎない、ちょうどいいサイズに合わせることが基本中の基本です。
中型以上のザックであれば同じ容量のパックでも背面長の長さでS/M/Lなどバリエーションがあるモデルや、1つのバックパックで背面長が調整可能なモデルがほとんどです。購入前には必ず自分の背面長に合わせてフィット感を確認してみましょう。
- ショルダーハーネスの幅、長さは合っているか?
肩口から脇下に回っているショルダーハーネスは、自分の肩幅と合っていることが理想です。広すぎても狭すぎても変に食い込んだり擦れたりしてケガのもとになります。
また長さも、長すぎたり短すぎたりすれば、適正なフィットができなかったりパッド部分が邪魔になったり足りなかったりといった不都合が起こりますので、自分の体型に合った長さになっているかチェックしましょう。
- ヒップベルト(ウエストハーネス)の長さは合っているか?
バックパックの腰回り部分に取り付けられたヒップベルトは、短すぎるとパッドが腰骨をカバーしきれないし、長すぎると腰に締め付けられないといった問題が出てきます。その他クッションは心地よいかどうかなど、フィーリング的に満足かどうかも実際に背負ってみることで分かります。
次の検討ポイントはバックパックの容量です。
正直なところ、自分のワンゲル時代を振り返ると、入部したてで購入した80リットルの大容量モデルで日帰り登山から2週間の縦走、沢登りとすべてのアクティビティをこなすことに何の疑問も感じませんでした。
ただ理想を言えば、大きすぎるパックでは荷物がダボついたり、バックパック自体が重かったり、あまり格好もよいものではありません。再開していきなり1週間の旅に出るわけではないと思います。このため適正サイズのバックパックを選ぶことをおすすめします。
アクティビティや個人の趣向によって多少の違いはあるものの、多くのガイドや個人的な経験などから、適正なバックパックの容量は以下のように考えるのがよいでしょう。
- 日帰りや小屋泊まり・・・~30L
- 日帰り~テント2泊・・・30~50L
- テント2泊以上・・・50L~
登山再入門という視点からなるべく1つで幅広く使いたいという場合、雪のある時期を考えなくてよいならまずは30リットル、出来れば軽い積雪期にも使いたいという場合は35~40リットルのモデルがおすすめです。
その他のポイント
パッキングのしやすい便利で十分な収納を選ぶ
「荷物の出し入れがしにくい」「荷物の整理がしにくい」「荷物が隙間なく収まりにくい」などのバックパックは、登山前日の夜にイライラさせるだけならばまだしも、荷物の出し入れが頻繁な泊りの登山などではいっそう耐え難い問題になってきます。当然のことながらパッキングのしやすさは登山用のバックパックにとっても大切なポイントです。
そこでこれまでの調査と経験から、以下に収納のしやすいバックパックかどうかをチェックするポイントをまとめてみます。すべてが備わっている必要はありませんが、出来る限りたくさん当てはまった方がより使いやすいと考えてよいでしょう。
- メイン荷室(メインコンパートメント)はできるだけシンプルな円筒型。
- メイン荷室に横や下からアクセスできる「ダイレクトアクセスジッパー」が付いている。
- 雨蓋(ザックの上部を被せるように付いている部分)ポケットがなるべく大きく、入り口が広かった、ポケット自体が2つついていたりする。
- 側面についているサイドポケットがなるべく大きい(横にも入り口があって歩きながらボトルを出し入れしやすいとなお良し)。
- バックパックの正面に大きな伸縮式のフロントポケットが付いている。
- ウエストベルト左右にポケットが付いている。
- ショルダーハーネスに(例えばスマホやボトルを収納できるような)ポケットが付いている。
- トレッキングポールやピッケルを取り付けるループ(アタッチメント)が付いている。
- 両サイドにバックパック全体を締め付けて中の荷物を圧縮したり、長いもの(テントのポールなど)を固定するための「サイドコンプレッションストラップ」が付いている。
- 外側の底部に「ボトムストラップ」が取り付けられている。
レインカバーが付属していたらお得
万が一山の中で雨に降られた場合、バックパックが雨ざらしでは中のギアが濡れて使い物にならなくなってしまいますので、パックのレインカバーは必需品。そのカバーが標準装備されているモデルは機能的にも価格的にも間違いなくお得ですので、確認しておきましょう。
登山再入門におすすめの週末登山向けバックパック(30~49リットル)
参考までに、最後にこれから再入門するにあたって、10年ほど道具のレビューをしてきた筆者が、ここ最近で高く評価しているお気に入りのバックパックをいくつかご紹介します。
いずれも信頼性の高い登山専門ブランドが日帰り~小屋泊まりなどの一般的な登山向けに、最新技術とアイデアを採り入れて作られた人気モデルです。よく売れているモデルですので、プレミアムな価格がついているわけでもなく、おおむね3万円前後で購入できます。
このうちどれが最も優れているということではなく、それぞれのブランドには目指す理想によって異なる個性を持っているため、下記の中から自分の好みに合うモデルを選ぶとよいかと思います。
GREGORY ズール35(¥30,800 税込)
バックパックは「着るもの」というコンセプトで、徹底的にフィッティングと背負い心地の良さを究めたブランドの快適モデル
お気に入りポイント
- 背面のテンションメッシュパネルによる適度な通気性
- 調整可能な背面長
- 極上のフィット感と快適な背負い心地(背面通気ながらパックが背中から離れ過ぎず荷重安定性も高い)
- 使いやすさと耐久性に優れたバックルやドローコード、ジッパーなどの各種パーツ類
- 大き目のウエストポケット
気になるポイント
トレッキングポールホルダーやストラップなどの外部アタッチメント類が少ないため、シンプルなハイキング以外(よりテクニカルな登山)には向いていない
レインカバーが付属していない
底部が尖がっているという形状のため、ザックが自立しない
MILLET サースフェー NX 30+5(¥28,050 税込)
縦走から雪山、沢登りまで、どんなアクティビティや季節でも頼りになる盤石のオールラウンドバックパック
お気に入りポイント
- 重心が腰に乗り安定感抜群で疲れにくい背負い心地
- クッション性と通気性を両立させた背面・腰・肩パッド
- スリムで重心が上部に位置しやすい縦長フォルム
- 容量の拡張性
- 大型ヒップベルトポケットとメッシュショルダーポケット
- フロントに回してクランポンやわかん、スノーシュー等を留められるサイドコンプレッションストラップ
- ザックカバーが不要なほどの雨への強さ
- 十分な耐久性
気になるポイント
- (サイズのバリエーションはあるものの)背面長調節ができない
- メイン収納上部へのアクセスがしずらい(雨蓋を開けずともアクセスできる大きなフロントジッパーがない)
- サイドアクセスポケットの口が狭すぎてボトルの出し入れがやや難しい
- 砂埃等の汚れが付着しやすく取れにくい
Osprey ケストレル38(¥29,700 税込)
ハイキングや登山に使いやすさを突き詰めた細かな工夫が嬉しい、実用性抜群のバックパック
お気に入りポイント
- 調整可能な背面長
- 快適さとクッション性のバランスが絶妙な背面・ヒップ・ショルダーパッド
- 計算し尽くされた外部ポケット・アタッチメントの数々
- ビギナーにもやさしく使い勝手抜群の便利機能
気になるポイント
- 雨蓋のポケットが小さく出し入れし難い
- 雨蓋が固定されているため、容量のフレキシビリティが低い
山道具の最新情報とノウハウが詰まったWEBマガジン「Outdoor Gearzine」もよろしくお願いします
最後にちょっと宣伝を。
冒頭でもお伝えしましたが、筆者、H11卒久冨は現在アウトドアライター・編集を生業にしており、2014年よりリアルな山道具情報をお伝えするWEBマガジン「Outdoor Gearzine」を運営しております。そこでは厳選された優れた山道具の紹介レビューや道具にまつわるさまざまなお役立ち記事を多数配信中です。
またその他、プレミアムな有料記事の配信やトークショーやワークショップ、ハイキングといったさまざまな限定イベントなどに参加できる月額課金制の「メンバーシップ」サービスも最近始めました。ぜひ有益な情報と最先端のアウトドアカルチャーを体感いただき、またしがないワンゲルOBの端くれの支援だと思って…是非ともOBOGの皆さまこれを機会にメンバーシップ等で応援いただけますよう、よろしくお願いします🙇
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