OBOGのための山歩き再入門

登山用具のいまとむかし

第3回:登山の服装とレイヤリング

登山を再開しようというOBOGの皆さんのために、最新情報を交えて賢い道具選びについて数回に分けてお話ししていくこの企画。

今回は「登山用ウェア全般とレイヤリング」。いわゆる登山ウェアについて、基本的な着方・選び方についてです。

登山での服装は昔も今も「レイヤリング(重ね着)」が基本

かつては純毛の下着に登山シャツ、アウターには雨具やヤッケを羽織り、下はニッカーズボンやトレンカーといったスタイルが主流だった登山での服装は、21世紀を経た現代ではどのように変わったのか。

まず大前提として、登山というアクティビティ自体も、舞台となる自然環境も基本的に変わっていない以上、大きな意味では登山の服装に求められる機能は昔も今も変わっていません。重要なことは「激しく変わりやすい自然環境に対応」すること、そして「激しく動く・止まるを繰り返す運動時の体温変化に対応」することの2つです。

それを踏まえて、現在主流となっている服装のカギは「レイヤリング(重ね着)」です。

汗をかき始めたら1枚脱ぎ、寒さを感じ始めたら1枚重ね着する。コロコロと変わりやすい天気や身体の状態にすばやく適応するために、上手に重ね着してその都度細かく調整できるようにすることで、夏の暑さにも冬の寒さにも対応することができます。

レイヤリングでは、衣類の種類によって着る順番がある

レイヤリングが間違っていなければ、夏の激しい発汗時や突然の雷雨、あるいは頬を刺すような寒さのなかでも衣服内を一定の状態に保ち、常に気分よく行動することができますが、逆に誤ったレイヤリングでは、いくら高価なアウトドアウェアを着ていたとしても簡単に不快な状態へと陥ってしまいます。そうならないためにもまずは正しいレイヤリングを実践するための簡単な仕組みをぜひ押さえておいてください。

正しいレイヤリングの基本は、以下の3つの各レイヤー(層)が連携して機能することです。適切なレイヤリングによって、すべての層が連携して衣服内の汗(水分)を発散させ、熱を保持し、風や雨から身を守ることができます。

  • ベースレイヤー:肌面から汗を吸い上げ・発散させる

  • ミドルレイヤー:衣服内の温湿度を一定に保つ(内側からの水分は外側に受け渡す)

  • シェルレイヤー:風・雨・雪から身を守る

厳密にいうとウェアによっては一着で複数の役割をこなしてくれるものありますし、風のない真夏のランニングなど、季節やシチュエーションによってはすべてのレイヤーを重ね着している必要がない場合もあり、これらの機能と役割を理解したうえでシーンに応じて調節するのが賢いレイヤリングといえます。

ここで各レイヤーの基本的な役割と、それぞれのおすすめをまとめてみます。

ベースレイヤー:汗を吸い上げ、外側に受け渡す

どんな場合であっても、ベースレイヤーは文字通り「ベース(基礎)」として、あらゆる季節・アクティビティで欠かすことのできないレイヤーです。ベースレイヤー1枚だけで行動することはあっても、肌面にシェルレイヤーだけ着て活動するということはまずあり得ません。

そのベースレイヤーは、身体から出る汗を肌に残さないように吸い上げて外に排出する(上のレイヤーに受け渡す)ことで肌面を乾いた状態に、体温を一定に保つように機能します。

ベースレイヤー選びで最も大切なのはズバリ「生地に使われている素材」です。

まず(釈迦に説法ではあると思いますが)ベースレイヤーに綿(コットン)素材はNG。普段着としては快適ですが、繊維が水を吸収しやすいため汗や雨などで一度濡れてしまうと非常に乾きにくく、断熱性も低いです。よほど安全なシチュエーションでない限りはやめておいた方がいいでしょう。

一方で、吸湿・速乾性能の優れたナイロンやポリエステルといった化繊素材や、繊維が細くて長い高品質な羊毛繊維である「メリノウール」は山のベースレイヤーとして最適です。

両者の違いは、水を吸わずにより素早く乾き、耐久性も高いのが化繊、天然素材ならではのバランスの良い吸水・吸湿・調温・防臭性などによってより快適な着心地なのがメリノウールと覚えておけばよいでしょう。

現在ではそうした化繊とメリノウールを巧みにブレンドして両者の良いところ取りをしたモデルが主流です。真夏や激しい活動など汗をかきやすい場合は化繊、快適さや暖かさを重視したい場合はウールの混率が多いモデルを選ぶのがおすすめです。

なお、ベースレイヤーはそれ単体で登山することも多いことから(夏の暑い季節の安全な場合を除いて)紫外線や虫・藪などから身を守るため、なるべく長袖を選ぶということも、昔から変わらないセオリーです。

穏やかな登山向けのおすすめモデル

SmartWool クラシックメリノ ベースレイヤー オールシーズン(¥ 13,420)

現在のメリノウールブームの礎を作ったといっても過言ではない、米国発SmartWoolによる定番メリノウールベースレイヤー。良質なウールを耐久性の高いナイロン糸でサポートすることで耐久性や速乾性を高めている。


ミッドレイヤー(中間着):衣服内の温湿度を一定に保つ

ミッドレイヤーとは端的にいうと保温着(防寒着)。体温によって温められた肌面の熱を保つことで、低温下での寒さを防ぎます。このためウェアに中綿を詰めたり、もしくは起毛するなどで一定の「嵩高(かさだか)」構造を作り出すことによって、外部の冷気と体温との間に「空気の壁」をつくり、体表面近くの暖かい空気を閉じ込め、暖かさ・快適さを保ちます。その意味で、昔からウールのセーターやダウンジャケットは防寒着として重宝されてきました(ダウンジャケットは今でも軽くて暖かい防寒着としては最も優秀です)。

ただ、テントの中で何もせずじっとしているだけなら、ミッドレイヤーはとにかく「温める(断熱)」だけでも十分役割を満たしていますが、登山の場合、寒い中で汗をかきながら行動する場面も当然たくさん出てきます。そんな時はダウンジャケットのように蒸れやすい中間着は最適とはいえず、そこで出てきたのがフリースをはじめとした「行動保温着(アクティブインサレーション)」です。

ミッドレイヤーは、こうした機能の微妙な差異に着目して、目的とシーンによって使い分けるのがポイントです。保温を重視するならばダウンジャケットや、保温重視の化繊中綿を採用したジャケットを、冬の行動中の快適さを重視するなら化繊のアクティブ・インサレーションを採用した中綿ジャケットや薄手フリースなどを検討しましょう。

保温目的の登山向けおすすめモデル

patagonia マイクロ・パフ・フーディ(¥ 45,100) または DAS ライト・フーディ(¥ 49,500)

ダウンのようでありながら濡れにも強い中綿「プルマフィル・インサレーション」を防風性の高い生地と組み合わせ、最小限の重量で最大限の保温性と悪天候への耐性を実現している。春夏中心の薄手モデルが「マイクロ・パフ・フーディ」、冬も対応する中厚モデルが「DAS ライト・フーディ」。

行動着目的の登山向けおすすめモデル

Rab Evolute Hoody(¥ 18,700)

高い保温性と通気速乾性を両立し、止まっている時には暖かく、動いてるときには熱を逃し、常に状況に応じて体温を一定に保つように調節できる適応型ミッドレイヤー。フリースの進化系。


シェルレイヤー:風・雨・雪・冷気を遮断(&湿気の排出)

ベース・ミッドレイヤーが主に衣服内部を快適に保つ役割であったのに対し、シェルレイヤーの役割は主に外の環境から内部を守る役割といえます。とはいえ内側からの湿気や水分も外に排出できなければ、中が蒸れて濡れてしまいますので、ある程度の透湿性も必要とされます。

レインウェアやソフトシェル、ウィンドシェル、ハードシェルといった種類のウェアがこれにあたり、そのプロテクションの強さと透湿性(通気性)のバランスに違いがあります。季節や目的によって使い分けるのが理想です。

登山向けおすすめモデル(レインウェア)

mont-bell ストームクルーザージャケット(¥ 28,600)

多雨多湿の日本の登山で磨かれたノウハウが蓄積された、登山向けレインウェアの大定番。現在のところ最も信頼性が高い防水透湿生地「GORE-TEX」の3層生地を採用し、完全防水仕様で雨や雪から身を守りつつ、高い透湿性によって蒸れも排出。動きやすさを加味した立体裁断、十分な耐久性、相対的に手ごろな価格など隙が無い。


登山向けおすすめモデル(ソフトシェル)

Black Diamond メンズ アルパインスタートフーディー(¥ 27,610)

ソフトシェルのパイオニアとして名高いschoeller®社製の二重織ソフトシェル生地を採用した、軽量ソフトシェルフーディー。霧や小雨、風のある稜線等で耐候性を発揮し、高い耐久性とストレッチ性を備え、抜群のフィット感と動きやすさを提供。適度な通気性によって蒸れも逃す。


実際にはもう少し細かいポイントもありますが、それに関してはいつものようにぜひ私の運営している下記「Outdoor Gearzine」内のガイド記事を参照いただけますと幸いです。

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